01_がん03_内分泌栄養代謝医療薬学

『腫瘍糖尿病学』について考える

こんにちは、薬局薬剤師のふぁるくま(@farukumayaku)です。

このブログでは薬剤師の勉強に関する情報を発信しています。

ふぁるくま
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「腫瘍糖尿病学」という概念について考えてみました。学会でこの単語を聞き、興味深い概念だなーと思っています。

本記事では「腫瘍糖尿病学」をテーマに、がんと糖尿病の関係について考えていきます。この概念は、国立がん研究センター中央病院の大橋先生から拝聴したものです。

糖尿病診療を通じてがん患者さんと向き合う中で、私たちはその複雑さ、難しさを改めて痛感すると同時に、大きなやりがいを感じています。

そして、従来のコンサルテーションという枠組みを超えた、「腫瘍糖尿病学」という新たな分野を確立できたらと考えるようになりました。がん患者さんの糖尿病を診るためには、糖尿病のことを知っているだけでは不十分なのです。

大橋 健,腫瘍糖尿病学Q&A がん患者さんの糖尿病診断マニュアル,金芳堂,2020

がんと糖尿病は相互に関係しており、最適な治療を提供するためには両者に精通している必要があることから「腫瘍糖尿病学」という概念を提唱した、ということと解釈しております。

本記事は、以下のような方を対象にがんと糖尿病の関係について記載しました。

  • 腫瘍糖尿病学という単語を初めて聞いた方
  • がんと糖尿病の関係について知りたい方

※9分で読めますので、最後までご覧ください。

糖尿病の合併症としてのがん

糖尿病ではがんのリスクが増加する

糖尿病(主に2型糖尿病)では、がんのリスクが高いことが報告されています。日本糖尿病学会と日本癌学会による合同委員会で、糖尿病とがん罹患リスクが検討されています。2)

がん腫メタアナリシス
相対リスク(95%信頼区間)
わが国のプール解析
相対リスク(95%信頼区間)
胃がん1.19(1.08―1.31)1.06(0.91―1.22)
大腸がん1.3(1.2―1.4)1.40(1.19―1.64)
肝臓がん2.5(1.8―2.9)1.97(1.65―2.36)
膵臓がん1.82(1.66―1.89)1.85(1.46―2.34)
乳がん1.20(1.12―1.28)1.03(0.69―1.56)
子宮内膜がん2.10(1.75―2.53)1.84(0.90―3.76)
前立腺がん0.84(0.76―0.93)0.96(0.64―1.43)
膀胱がん1.24(1.08―1.42)1.28(0.89―1.86)

特に大腸がん、肝臓がん、膵臓がんのリスクは高く、必要に応じてがん検診の受診を勧奨することも大切です。

がんは糖尿病患者の死因の第1位

また、 日本での糖尿病患者の死因の第1位はがん(38.3%)であり、第2位は感染症(17.0%)、第3位は血管障害(慢性腎不全、虚血性心疾患、脳血管障害)です。3)がんの臓器別内訳を見ると、第1位は肺がん(7.0%)、第2位は肝臓がん(6.0%)、第3位は膵臓がん(5.7%)という結果でした。

糖尿病と癌に関する委員会報告によると、発生リスクを上昇させるメカニズムはインスリン抵抗性とそれに伴う高インスリン血症、高血糖、炎症などが推定されています。

ふぁるくま
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糖尿病患者における食事療法、運動療法、禁煙、節酒はがんリスク減少につながる可能性があると提言されており、薬局薬剤師が介入できる余地は多いのではと感じます。

NASH/NAFLD

非アルコール性の脂肪肝から脂肪肝炎や肝硬変に進行した状態までを含む一連の肝臓病のことを「非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD(ナッフルディー)」といいます。

NAFLD のうち1~2 割が肝硬変や肝臓癌に進行しうる非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH(ナッシュ))へ移行するとされています。

NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)に、NAFLD/NASHからの肝発がん率について記載されています。NAFLDからの肝発がん率は低率(0.44/1,000人・年)であるが肝病態の進展とともにリスクは上昇し、NASHでは5.29/1,000人・年、肝硬変では0.45~22.6/1,000人・年と考えられる、とされています。4)

ふぁるくま
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NASHを主因とする肝臓がん。個人的には気になるトピック。

がん治療中の血糖コントロール

毎日がシックデイ

糖尿病の方が風邪をひいたり、具合が悪くて食事が食べれない時をシックデイと呼び、薬の服用を調整したり血糖コントロールが難しくなることはご存知だと思います。5)

糖尿病の方が、感染症にかかり、熱が出る・下痢をする・吐く、また食欲不振によって、食事ができないときのことを『シックデイ』(体調の悪い日)と言います。 このような状態では、インスリン製剤を普段使用する必要のない血糖コントロールが日頃は良好な方でも、著しい高血糖になり、たいへん重い状態になることがあります。

糖尿病情報センターより引用

がん治療中は、抗がん剤の副作用、手術による消化管障害、放射線などを要因として、吐き気や食欲不振によって食事摂取量が変化する可能性があります。常にシックデイになりうることを想定し、患者フォローする必要があると感じます

支持療法の薬剤による血糖上昇

日本癌治療学会の制吐薬適正使用ガイドラインには、抗がん剤の悪心リスクにステロイドであるデキサメタゾンが用いることが記載されています。また非定型抗精神病薬であるオランザピンが用いられることもあります。いずれも血糖を上昇させるため、血糖コントロールが重要となります。6)

糖尿病を発症していない場合でも、高血糖状態が続くと糖尿病を発症して合併症を引き起こす可能性があります。一方で、制吐剤を使わないと抗がん剤による副作用が生じ、治療がうまく進まない。つまり血糖をコントロールしつつ、副作用を抑制し、化学療法を継続することが大切だと言えます

免疫チェックポイント阻害薬と糖尿病

ニボルマブ(商品名オプジーボ)およびペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)をはじめとする免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)は、免疫細胞を活性化することにより抗腫瘍効果を示すと考えられていますが、免疫反応が過剰になることによる免疫関連有害事象(immune-related Adverse Events:irAE)が近年注目されています。

irAEは全身に生じる可能性がありますが、1型糖尿病もその一つです。劇症1型糖尿病を生じ、ケトアシドーシスに至る可能性があるため継続的なモニタリングが重要です。

2016年には、日本糖尿病学会より「免疫チェックポイント阻害薬使用患者における1型糖尿病の発症に関する Recommendation」が発出され、血糖値や高血糖に伴う随伴症状のモニタリングと、必要に応じて糖尿病専門医へのコンサルテーションが推奨されている。7)

まとめ

いかがでしょうか。

糖尿病とがんに興味がある薬剤師におすすめの分野です。領域横断的に関与できるのは薬剤師の強みだと思っており、貢献の余地が大きい可能性があると感じます

ふぁるくま
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一緒に勉強してこの領域を盛り上げていきましょう!

参考文献

1)大橋 健, 腫瘍糖尿病学Q&A がん患者さんの糖尿病診断マニュアル. 金芳堂, 2020.
2)糖尿病と癌に関する委員会, 糖尿病と癌に関する委員会報告. 糖尿病 2013;56(6):374-390.
3)中村ら, ―糖尿病の死因に関する委員会報告―アンケート調査による日本人糖尿病の死因―2001~2010 年の 10 年間,45,708 名での検討―. 糖尿病 2016;59(9):667-684.
4)日本消化器病学会・日本肝臓学会, NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版). 2020.
5)糖尿病情報センター, がん. https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/070/index.html.
6)日本癌治療学会, 制吐薬適正使用ガイドライン. http://www.jsco-cpg.jp/item/29/index.html.
7)日本糖尿病学会, 免疫チェックポイント阻害薬使用患者における1型糖尿病の発症に関するRecommendation. 2016.

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