07_腎尿路生殖器系医療薬学

なぜ薬物の腎クリアランスを糸球体濾過量だけで評価する?尿細管分泌や尿細管再吸収は?

こんにちは、薬局薬剤師のふぁるくま(@farukumayaku)です。

このブログでは薬剤師の勉強に関する情報を発信しています。

ふぁるくま
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今回は「なぜ薬物の腎クリアランスを糸球体濾過量だけで評価するのか?尿細管分泌や尿細管再吸収は?」という疑問についてまとめました。個人的には理解するのにもやもやした部分です。

本記事は、以下のような方を対象に作成しました。

  • 腎臓に関する勉強を始めたばかりの薬剤師
  • 投与量設計にクレアチニンクリアランスやeGFRが用いられていることにもやもやする方

はじめに

薬剤師による腎機能を考慮した薬物投与設計は不可欠であり、役割として求められていることは言うまでもありません。抗凝固薬を過量投与した場合は出血性の合併症のリスクですし、抗がん薬を過量投与した場合も副作用リスクが高まります。腎機能を正しく評価し、適切に投与設計する知識を身に着けておきたいものです。

薬剤の投与設計にはCG式(Cockcroft-Gault 式)による推算クレアチニンクリアランス(CCr)や日本腎臓学会が作成した日本人のGFR推算式によるeGFR(推算糸球体濾過量:estimated glemerular filtration rate)が用いられています。しかし、私は「なぜ尿細管分泌や尿細管再吸収を考慮して薬剤の投与設計をしないのか?」という点がなかなか納得できず、もやもやしていました

今回は、まず腎クリアランスの構成要素を確認し、次に尿細管分泌や尿細管再吸収を定量的に評価する方法について調べた内容をまとめます。

1.腎クリアランスの構成要素

1-1.腎機能を評価する指標

腎機能を評価する指標として、CG式によるCCrや日本人のGFR推算式によるeGFRが用いられます。計算式は以下の通りです。

Cockcroft & Gault の式
 男性:eCCr(mL/min)=(140 – 年齢(歳) ) x 体重(Kg) / (72 x Cr )
 女性:eCCr(mL/min)=0.85 x 男性の値

日本人のGFR推算式(標準化eGFR)
 eGFR(mL/min/1.73m2)=194 X Cr-1.094 X 年齢(歳)-0.287 X 0.739(女性の場合)

日本人のGFR推算式(個別化eGFR)
 eGFR(mL/min)=標準化eGFR×(体表面積/1.73)

いずれもCr(血清クレアチニン)を用いて算出される指標です。クレアチニンは、内因性物質のため日常の検査で容易に測定でき、糸球体でほぼ100%濾過され、尿細管から再吸収されることなく尿中に排出されることから腎機能を評価する指標として用いられます。

ただ、クレアチニンを腎機能を評価する指標として用いる場合には、筋肉量の影響や低栄養状態など変動要因を考慮する必要がありますし、尿細管分泌されるため尿細管分泌阻害薬を服用している場合も変動要因として考慮する必要があります。

腎機能を評価する指標としてイヌリンがあります。これは外来性物質であり、糸球体で100%濾過され、尿細管分泌や尿細管再吸収もされませんので、腎機能評価のGold Standard とされています。ただ検査が煩雑なため、代替指標として簡便なクレアチニンが実臨床で用いられているということです。

1-2.構成要素は①糸球体濾過、②尿細管分泌、③尿細管再吸収

薬物が血液から尿中に移行して排泄される場合には、①糸球体濾過、②尿細管分泌、③尿細管再吸収の影響を受けます。つまりこの3つの総和が腎クリアランスと考えられます。前述のイヌリンとクレアチニンを用いてこの3つのクリアランスを示したものが以下の図です。

この尿細管分泌や尿細管再吸収には薬物トランスポーターが関与していますので、この薬物トランスポーターの輸送能を定量的に評価できれば、薬物投与設計に活用できると考えれます。

1-3.CKDの重症度分類は①糸球体濾過量のみ

日本腎臓学会のCKD診療ガイド2012によるとCKDの重症度分類は以下の通りです。重症度分類には①糸球体濾過量が用いられていることが分かります。一方で②尿細管分泌、③尿細管再吸収は記載されていません。

2.尿細管分泌、尿細管再吸収の定量的評価は困難

腎臓の薬物トランスポーターの輸送機能を定量的に推定できれば、薬物投与設計に活用できそうですが、定量的に測定できる内因性マーカーは知られていません。輸送に関与していることが特定されている薬剤を指標として投与し、クリアランスを測定できれば輸送機能を評価できる可能性はありますが、現実的ではありません。

つまり、現状は腎クリアランスがeCCrやeGFRに比例すると仮定して投与量設計が行われています。もちろんシメチジンのような尿細管分泌阻害薬を服用中の患者では相互作用に注意する必要はありますが、定量的に評価して投与量設計することは現実的に不可能ということです。

まとめ

今回は以下の書籍を参考にまとめました。

この書籍を読むまではCCrやeGFRを活用した投与量設計を実践しつつも、なんとなくスッキリしない感じでしたが、読むことで腎臓病薬物療法に関して理解が進んだように感じます。本記事が日常業務の参考になれば嬉しく思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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